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最高裁判所第三小法廷 平成5年(オ)1179号 判決 1996年12月03日

大阪府吹田市豊津町一六番五号

旧商号

株式会社三和企画

上告人

株式会社三和コーポレーション

右代表者代表取締役

渡部一二

右訴訟代理人弁護士

牛田利治

白波瀬文夫

岩谷敏昭

右輔佐人弁理士

塩出真一

大阪府大阪狭山市山本北一四二三番地の六

被上告人

ミツギロン工業株式会社

右代表者代表取締役

森本重男

同大阪狭山市大野台一丁目一三番一一号

被上告人

森本重男

同岸和田市今木町一〇一番地

被上告人

新日本ケミカル・オーナメント工業株式会社

右代表者代表取締役

中岸光義

右三名訴訟代理人弁護士

梅本弘

片井輝夫

石井義人

池田佳史

右当事者間の大阪高等裁判所平成三年(ネ)第二八二四号製造販売差止等請求事件について、同裁判所が平成五年三月二三日言い渡した判決に対し、上告人から一部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人牛田利治、同白波瀬文夫、同岩谷敏昭、上告輔佐人塩出真一の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 千種秀夫 裁判官 園部逸夫 裁判官 可部恒雄 裁判官 大野正男 裁判官 尾崎行信)

(平成五年(オ)第一一七九号 上告人 株式会社三和コーポレージョン)

上告代理人牛田利治、同白波瀬文夫、同岩谷敏昭、上告輔佐人塩出真一の上告理由

上告人は、原判決が、イ号物件四~六につき、これが本件考案の技術的範囲に属しないと判断された点につき、上告理由を述べる。

一、本件考案の構成

本件考案の構成は、出願公告決定後の補正公報の実用新案登録請求の範囲に示されるとおりである。これを分説すると次のとおりである。

(一)、トレイ内の食品を透明フィルムで包装する食品包装パックにおいて、

(二)、二股部に縦部材を連設し、さらにこの縦部材に傾斜板を連設してプラスチック製の間隔保持具を形成し、

(三)、この間隔保持具の二股部をトレイの側壁に係合させ、

(四)、食品を入れたトレイを透明フィルムで傾斜板の上面を押圧して包装するようにしたことを特徴とする

(五)、食品包装パック。

二、本件考案の効果

本件考案の目的は、刺身等がトレイに盛り付けられている場合にこれを透明フィルムでパックすると、刺身等に透明フィルムが密着し刺身が押されて外観が悪くなり、鮮度も落ちてくるという問題点を解決し、また従来の山形のプラスチック板では固定されていないので作業上能率が悪く種々の不便があるため、容器の大きさ、形状に関係なく能率よく迅速、確実にパックでき、しかも保持具のスペースを必要とせず、かつ見映えも良好であり、さらにトレイに溝を有する突起物や段部を設ける必要のない食品包装パックを提供しようとするものである。

本件考案はこの目的を達成するため、右構成を採用し、二股部3に縦部材4を連設しこの縦部材4に傾斜板5を連設してプラスチック製の間隔保持具2を形成し、この間隔保持具2の二股部3をトレイ1の側壁6に係合させ、食品7を入れたトレイ1を透明フィルム8で傾斜板5の上面を押圧して包装することとしたものである。

この構成により、刺身等がトレイ1の側壁6の高さより上にはみ出して盛りつけられていても、間隔保持具2が取り付けられているので、透明フィルム8は刺身等の上側に空間を有するように張られ、透明フィルム8が刺身等に密着して押し付けられることはない。そのため食品の外観を良好にし、かつ鮮度を落とすことがない。また間隔保持具はトレイの側壁にワンタッチで係合固定されるので、トレイの大きさ、形状に関係なく、パック包装作業を迅速かつ確実に行うことができる。しかも間隔保持具のスペースを必要とせず、見映えも良好であり、さらにトレイに、溝を有する突起物や段部を設ける必要がない。

本件考案の作用効果は、以上のとおりである。

三、イ号物件四ないし六の構成

イ号物件四ないし六の構成は次のとおりである。

「三本足構造の二股部3をもうけ、中央の足部を曲成した挟持部分13とし、該二股部3に縦部材4を連設し、さらにこの縦部材4に傾斜板5を連設し、該縦部材4と傾斜板5を連続してトレイ1の内側に湾曲せしめたプラスチック製の間隔保持具2を形成し、」

四、本件考案の構成(二)とイ号物件四ないし六の構成の対比

1、本件考案の構成(二)とイ号物件四ないし六の構成の対比上、主要な問題とされた点は、イ号物件四ないし六は、縦部材4と傾斜板5が連続してトレイの内側に湾曲せしめられている(円弧状板となっている)点において、本件考案の実施例と相違している、という点である。

2、原判決は基本的に第一審判決と同一見解を採用され、イ号物件四~六は被控訴人(被上告人)が有する考案の一実施品であるとされている(原判決14丁表)。そして、「……前記のとおりイ号物件四ないし六の円弧状板(支え部)は、機能的には縦部材及び傾斜板とからなる本件考案の構成要件(二)の間隔保持具上部に相当するが、その形状(構造)を全く異にするものであるから、イ号物件四ないし六は本件考案の構成要件(二)の縦部材及び傾斜板を具備すると認めることはできないとの前記認定はその性能検査の結果如何によって左右されるものではない。」と判示されている(原判決17丁裏)。

3、しかし被控訴人の有する実用新案権は、新規性、進歩性を欠くものであり、上告人は、現在、特許庁に無効審判を請求している。

右実用新案については無効審決がなされるべきものであって、イ号物件四~六が右考案の実施品でみるとしても、この点が、イ号物件が本件考案の技術的範囲に属さないとの判断の根拠になるものではない。

4、次に、原判決は「イ号物件四~六の円弧状板が機能的には本件考案の縦部材.傾斜板に相当する」とされながら、形状(構造)が異なるので、技術的範囲に属さないとされている。

しかし、両者は、その作用(はたらき)において同一であり、手段(構成)として同一であるから技術的思想として同一である。従って形状(構造)に拘泥すべきではない。

技術的範囲属否の判断の前提となる構成の一致、不一致の判断として、両者は同一である、との判断にいたるべきものである。

本件考案の構成(二)における間隔保持具の「縦部材4」とは、「二股部3より上方にのびて傾斜板5を上方に導きこれをある程度の高さに支持する部分」であり、「傾斜板5」とは、「上方で透明フィルムを直接支える部分」であり、縦部材4と傾斜板5の形状については何ら限定されていない。

イ号物件四ないし六においては、縦部材4と傾斜板5は連続してトレイ1の内側に湾曲せしめられている円弧状である。本件考案の縦部材4及び傾斜板5の形状は限定されていないのであるから、イ号物件四ないし六のように、縦部材4と傾斜板5が円弧状のものも、本件考案の間隔保持具2の実施例に含まれる。このことは、本件明細書の考案の詳細な説明の「実施例」の項に、「縦部材4・・・は、・・・必ずしも二股部3に対して垂直なもののみを意味するのではなく、ある程度、傾斜していても・・・よい」との記載(補正公報訂3の34~35行)があることなどから明白である。

よって本件考案の構成とイ号物件四ないし六の構成は実質的に同一である。

五 結語

以上の点から、イ号物件四~六が本件考案の技術的範囲に属しないとされた原判決の判断は、実用新案法第二六条で準用される特許法第七〇条に違背すると思料するから、原判決を破棄きれたい。

以上

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